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MAINTENANCE REPORT

【E46 M3】フルブッシュ交換【55,000Km】

12月も1/3が終了しましたが、ピット作業は落ち着く事もなく、去年もギリギリまで入庫があった記憶があり
毎年変わらずかな・・・といったところでしょうか。
今年は夏くらいから、全国積載車で動き回りなかなか自分自身の担当作業も捗らず(特にメンテナンスレポートなど・・・)
その点が心残りですが、色々と整備やレストアのデータ蓄積も出来た年だったので
実りのある一年だったのかなと思っています。
年末の締めのご挨拶には少々早いのでこの辺りで今回作業のレポートをアップしていきましょう。

今回はE46 M3のフルブッシュ交換です。走行距離は55,000Km。
今回の車輌は2002yモデルで17年の経年を考慮すると走行距離が少なく程度も良い車輛ではありますが
足廻りの経年劣化はゴム部品を使用しているので避けられませんね。
オーナー自身も常に良い状態で運転を楽しみたいという感覚をお持ちなので、
今回はフルブッシュ交換、ショックアブソーバー・サスリフレッシュを行って、
E46M3らしいパワフルで軽やかな走行性能を復活させていきましょう。まずはリアアクスルキャリアからのブッシュ交換。
リフトアップして先にマフラー等を取り外していきます。プロペラシャフトへアクセスする為、マフラーの遮熱板を外します。マフラーや遮熱板等で見えなかった箇所等に異常が無いか確認し、
プロペラシャフト、リアアクスルキャリアを車体から降ろします。リアアクスルキャリアで隠れていた箇所も異常が無いか各部を確認。
綺麗な下廻りですね。
車体から降ろしたリアアクスルキャリア。
各パートに分解してからブッシュを交換するのですが、
作業の前に洗浄を行って付着した汚れを落しておきます。洗浄をしておく事は作業効率をUPさせるだけでなく、汚れで見えなかった問題箇所等を発見する事に繋がる為、
点検や作業の前には必ず行っておきます。洗浄を終えたら各部のチェックを行いながらそれぞれに分解していきます。今回交換するリアセクションブッシュ一式。
ブッシュ等のゴム系のパーツは経年劣化で油分が抜けると硬化していく事で衝撃を吸収出来無くなり、
弾力性が失われて潰れてしまったり、徐々に亀裂が入って破損してしまう事がある為、経年を考慮して交換が必要です。
劣化は走行方法や走行環境等によっても変わる為、一概に交換時期がいつくらいと断定出来ない事もあり
やはり乗ってみて気持ち良く走れるかどうかなどご自身が感じるかどうかなど確認しながら
主治医と相談しプランを立てていくのが良いかと思います。
リアアクスルキャリアブッシュの交換。
作業の前にリアアクスルキャリアの計測を行い、歪みや亀裂・凹み等の異常が無いか確認を行います。
リア廻りをしっかりと支えるパーツなので当然頑丈に作られてはいるのですが、
溶接部のクラックや変形などしているケースを何度か私たちも見ているので
そういった点を重点的に確認し作業を進めます。
車体から降ろさないと全体像を確認する事が出来ない箇所なので、
細かい変化も見落とす事が無い様に慎重に進めていきます。
SSTを使用して古いブッシュを取り外していきます。取り外した古いブッシュも綺麗に消耗が進んでいるそうでないかなど状態を確認しておきます。
ブッシュを圧入する際は塵や砂埃の混入や斜めに入ったりする事がない様に慎重に作業を進めて行きます。ドライブシャフト、トレーリングアーム一式。
ベアリングサポートを外しブッシュの状態を確認。SSTを使用して左右のトレーリングアームブッシュを交換。ナックル部分のボールジョイントを交換。作業の際にパーツに付着した錆や汚れ等が圧入面に付着する事がある為要注意。新旧のトレーリングアームのボールジョイント。異物の侵入や斜めに圧入してしまうとブッシュの異常や消耗が早くなる為、慎重な作業が必要です。
今回画像は有りませんが、トレーリングアームのナックル部のマウントブッシュも同様に交換をしております。デフマウントの交換。経年による錆や汚れの付着等で固着している事も多いのですが、錆の発生も無く簡単に取り外す事が出来ました。SSTで慎重に圧入し、リアアクスルキャリアのブッシュ交換が完了。ロアコントロールアームのブッシュ交換。
ロアコントロールアームは歪んでいる事も多く、寸法だけでなく劣化による材質の変化にも注意が必要で、
ブッシュのみの交換で問題が無いのか、ASSY交換が必要なのかを見極める事が大切です。アッパーコントロールアームのブッシュ交換。
正常に機能していたか古いブッシュの偏心具合を確認しておきます。
ブッシュは方向性があるのでの装着する際は間違えない様に要注意。リアのスタビブッシュ・スウィングサポートの交換。スウィングサポートはホルダーを外してASSY交換。新旧のスタビブッシュ・スウィングサポート。
目視で判る程の大きな劣化はありませんが、他のブッシュと同様に見た目以上に劣化している事がある為、
同時に交換を行います。新旧のリアショックアブソーバー、リアアッパーマウント、プロテクションチューブ、バンプラバー。
ショックアブソーバーはSACHS社のショックアブソーバーをチョイス。新旧のリアアッパーマウント。
装着に使用するガスケットも新品へ交換。新旧のスプリングパッド(上下)、リアコイルスプリング。
SACHSのショックアブソーバーに合わせてコイルスプリングはVOGTLAND(フォクトランド)の
ローダウンスプリングをセットアップ。コイルスプリングを装着。リアアクスルキャリア、リアショックアブソーバーを車体へ装着するのですが、
この段階では本締めを行わず仮組みの状態にしておきます。プロペラシャフトセンターベアリングを交換。
劣化が進むと亀裂が入り、酷いケースになると破損してプロペラシャフトが固定されなくなり、
大きく暴れて異音を発生させるだけでなく、プロペラシャフトへ悪影響を与える為、
定期的に劣化具合を点検し、状態が酷くなってしまう前に交換をおすすめしています。
プロペラシャフトのスプライン部は錆が出やすいので、錆を落としてグリスアップを行います。新旧のユニバーサルジョイント、プロペラシャフトセンターベアリング。
新品のプロペラシャフトセンターベアリングを装着。プロペラシャフトへ新品のユニバーサルジョイントを装着。プロペラシャフトフランジへ新しいガスケットを装着し、グリスを塗布してからプロペラシャフトを装着。
ガスケットを交換しないとグリス漏れを発生させる為、脱着の際は必ず新品のガスケットへ交換して下さい。プロペラシャフトを車体へ装着しリアセクションは終了です。フロントセクションのブッシュ交換作業へ入ります。
交換するフロントセクションパーツ一式。
ロアアームコントロールブッシュはブッシュのみの交換を行います。取り外したフロントショックアブソーバーはスプリングコンプレッサーを使用し、
アッパーマウントやコイルスプリング、バンプラバー、スプリングパッドを取り外します。コイルスプリングを抜いて、各パーツを取り外します。新旧のフロントコイルスプリング。
リア側と同様にVOGTLAND(フォクトランド)に変更します。新旧のフロントショックアブソーバー。
こちらもリア側と同様にSACHSのショックアブソーバーへ交換。取り外したショックアブソーバーのダストブーツは破れていましたね。
走行中はショックアブソーバーの伸縮に合わせて常に可動しており、徐々に劣化して亀裂等が発生します。
ダストブーツが破れたまま走行を続けると、むき出しになったロッドやオイルシールに砂埃等が付着する事で、
オイルシールを傷めてオイル漏れを発生させ、ショックアブソーバーの交換が必要になってしまう事もある為、
多少の亀裂だからと放置したり破損してから交換するのではなく、状態の変化に対応し作業を進める事が大切です。
フロントショックアブソーバーの組立が完了。
新旧のフロントスウィングサポート、スタビブッシュ。
フロントスウィングサポートはリアと違い、ボールジョイントになっている為、
ブーツが破けていたら交換が必要なのですが、ブーツが破けていなくても劣化により
動きが渋くなっていれば交換をお勧めしています。ロアアームコントロールブッシュの交換。
このブッシュは常に多くの負担が掛かる箇所なので、E46のブッシュの中でも一番交換頻度が多い部品のひとつです。
走行方法や走行環境にも左右されますが、発進時や停止時にアクセルペダル付近からゴトゴトと異音が発生したり、
ステアリングがガクンと振れてしまう様な振動が出ていたら交換が必要です。SSTを使用してブラケットを取り外します。何らかの影響でどちらか一方に異常が出たとしても片側だけの交換は行わず、必ず左右同時の交換が必要です。新旧のロアアームコントロールブッシュ。
今回はブッシュを打ち替えますが、状態によりASSY交換が必要なケースもあります。プレス機で古いブッシュを打ち抜いて新しいブッシュを圧入。ロアアームコントロールブッシュの交換を終えたらSSTを使用して元通りにブラケットを装着するのですが、
斜めに入れたり無理矢理装着してしまうと破損の原因になったり、
耐久性が悪くなって交換しても短期間で交換が必要になってしまう事がある為、
コントロールアームに対して垂直に装着する事が大切です
左右のロアアームコントロールブッシュの交換が完了。フロントショックアブソーバーを装着。
リフトに乗せた状態で本締めしてしまうとタイヤを接地させた際にブッシュの捻じれだけでなく、
4輪ホイールアライメントも適正な数値に調整する事が出来なくなってしまう為、
アクスルキャリアやショックアブソーバーを装着する際は、前後共に仮組みの状態で軽くテストランを行って、
各部のブッシュを馴染ませてから本締めを行う事が大切です。長年の汚れが堆積していたフロント部の補強プレートを洗浄。
塵や砂埃だけでなく、オイル漏れを起こしていると更に汚れが堆積してしまうだけでなく、
補強プレートが漏れたオイルを受け止めてしまう事でオイル漏れに気付かないケースも多く、
オイル漏れに気付いた時には症状が悪化している事もあるので、点検の際は注意が必要です。洗浄剤で汚れを浮かせてからスチーム洗浄で綺麗に洗い流します。パーツの洗浄を行っておく事はパーツを綺麗に保つだけでなく、
汚れた状態では気付かなかった異常を発見したり、状態の変化に気付きやすくなる為、
脱着の際はパーツの汚れを落しておく事が大切です。補強プレートを装着するボルトはアルミボルトなので再使用不可です。
足廻りに関する全ての作業を終えたら最後に4輪ホイールアライメント調整を行います。
調整の前にテストランを実施し、交換した各ブッシュを馴染ませて仮止めだった箇所の本締めを行ってから、
メーカーの数値を基準値として何度もテストランを繰り返しベストな数値を導き出していきます。
4輪ホイールアライメント調整は単に車を真直ぐに走らせるだけでなく、スムーズなコーナーリングや
安定した高速走行を可能にし、タイヤの偏摩耗を防ぐ等、
本来の走行性能を発揮させる為にも非常に重要な作業になります。
4輪ホイールアライメント調整は非常にシビアでパーツやブッシュの劣化、タイヤの摩耗具合の違い等、
同じ車種だとしても各車毎にそれぞれに数値が変化する為、安易に数値だけを合わせるのではなく、
実際に走行を行ってその車に適した最高の状態に数値を導き出していく事が大切です。高速テストランも実施し、高速走行時の直進安定性や車線変更、ブレーキング等に問題は無いか確認を行います。
アクセルにしっかりと反応し、背中をググっと押し出される加速感やスムーズな車線変更、コーナーリング等…
高速走行時にE46M3が奏でるシルキーシックスのエンジンサウンドは非常に魅力的ですね。
アウトバーンの様に速度無制限で走行する事は当然出来ませんでしたが…
最高の時間を堪能する事が出来ました。
オーナーへ分解整備記録簿と4輪ホイールアライメントデータ・テストドライブ記録をお渡しし、
今後のメンテナンス等を伝えて納車となりました。

今回は足廻りブッシュの交換やショックアブソーバーを交換する等、
足廻りのリフレッシュを行いました。
今回の様に一気に作業を行う事が出来ればベストなのですが、予算や整備に掛かる手間や時間等を考慮すると
簡単に行う事はなかなか難しい事もあるかと思います。
今回の様な作業が出来なくても掛かりつけの主治医と相談しながら長期のメンテナンスプランを立てて、
優先順位を付けながら少しずつメンテナンスを行う方法もあるので、
ご自身に適した方法でメンテナンスを行っていくと良いではないでしょうか。

2019年12月13日