【E46 M3】VANOSオーバーホール【85,000Km】
2004年式のE46 M3が千葉から入庫致しました。走行距離は85,000Km。
今回の入庫にあたって事前にオーナーとメールで打ち合わせをしていたのですが
焦点となっていたのがVANOSギアユニット部のフィリスターヘッドボルトに関してでした。
ネットでも検索するとすぐにヒットしますが、このフィリスターヘッドボルトは
脆弱なロットが存在しており、そのままの状態で走行を続けていると
ボルトが破断し、エンジンに壊滅的なダメージを引き起こすというものです。
以前から当社でもメーカーから数件のトラブルは耳にしており、
海外でも実際に破断して走行不能に陥ったS54エンジンの記事もありますので、
E46 M3やZ4M等のS54エンジン搭載車にお乗りの方はちょっと気にかけておいた方が
良い事案かもしれません。2006年4月に耐破断性能が約1.5倍ほどアップした新型ボルトがパーツリストに入り
旧型ボルトはパーツリスト落ちしておりますが、実際に新旧どちらのボルトが使用されているかは
ギアユニット部分を確認するしかないと言って良いでしょう。
旧型はヘキサゴン、新型はトルクスで締めこむよう変更されています。それでは作業開始になります。
カムカバーを取り外して確認出来れば良いのですが、
残念ながらギアユニットカバーが付いておりVANOSの脱着が必要。86,000Kmという事もあり、スラッジの付着が気になるところです。VANOSユニットを取り外す為には、SSTを使用してVANOSを取り外す準備を進めます。まずはソレノイドユニットを取り外します。
ソレノイドユニット内にもスラッジが多く堆積している事もありますので
のちほど洗浄を行います。お預かり時にミラーで確認した際に、オイル漏れしているのは分かっていましたが
ソレノイドを外すとはっきりと分かりますね。
VANOS取り外しが終わり、ギアユニットカバーを外していきます。ここでようやく例のフィリスターヘッドボルトを確認する事が出来ます。ボルト頭はヘキサゴンタイプの旧型です。全て取り外していきます。左が強度のアップしたヘッドボルト。右が旧型のタイプですね。
手にしたくらいでは違いは分かりませんが
熟練したメカニックになると締めこんでいった際の感触で
硬いボルト柔らかいボルトくらいの判断は出来るようで
当社の工場長も全くの別物だと言っていましたね。緩んでしまっては、交換した意味も何も無くなってしまうので
高強度、耐熱用のロックタイトを使用して緩み止めとします。ボルトを固定するにもトルクだけでなく順序がありますので
順序通り、既定のトルクで締めこみますが
緩いのはもちろんの事、既定トルク以上の締め込みを行ってしまうと
それもボルト破断の原因になりますので、適切なトルクレンチの使用方法も問われる作業のひとつです。インテーク側のフィリスターヘッドボルトは新品に変わりました。
ユニットギアカバーを取り付けし、インテーク側は完了です。エギゾースト側の交換。インテークと同様に作業を進めます。インテークとエギゾーストで計12本のボルトが必要になります。同様にロックタイトを使用し。既定のトルクで固定していきます。
ギアユニットカバーを取り付けし、フィリスターヘッドボルトの交換は終了です。VANOSユニットを分解していきます。エギゾースト側のオイルポンプを取り外していきます。Cリングを取り外しとその下にあるワッシャリングを取り外し。オイルポンプが外れました。カムの回転によって駆動されるポンプになります。分解し洗浄していきます。
この際に使用しているバネやショートパーツに問題がないかも確認が必要です。
問題があった場合は、残念ながらメーカーからの個別のパーツ供給はありませんので
同等のパーツを用意する必要があります。
一点一点、パーツを詳しく調べていくと、ちゃんと規格に合ったパーツが存在しているものです。今回は問題が無かったので洗浄後に組み直し元に戻していきます。
事前に注油を行い、初期作動から円滑にポンプが回るようにしておきます。レギュレーティングバルブも取り外し洗浄。役割としてはエンジンオイルをエンジン内に戻すリターンバルブになります。VANOS取り付け部分のメタルガスケットを交換。オイルが漏れやすい箇所があるので、その部分は液体ガスケットを使用します。VANOSユニットの取り付け。シーリングプレートの交換。圧力リミットバルブの交換。今回はバルブの動作がいまいちだったので新品に交換しますが
フィルターやOリングはパーツ供給されますので
VANOSオーバーホール時には必ず交換しましょう。新品の圧力リミットバルブ。
フィルターの汚れ具合が良く分かりますね。油圧パイプの取り付け部分のガスケットリングも当然新品に交換。100気圧程度の油圧がかかっている部分になりますので
日頃のオイル管理がどれだけ大事かが良く分かりますね。カムカバーガスケット、プラグホールガスケット、ラバーシールも新品に交換。完成まであと少し。
クランクを2回ほど手で回し、正常に組まれていることを確認します。エンジン始動。
スムーズにエンジンは吹け上がり、テストランを実施して問題が無い事を確認し納車となりました。
2014年08月08日