第64回 B10 Bi-Turbo
今回のメンテナンスレポートの主役はE34 ALPINA B10
数種類のエンジンレパートリーがあるモデルですが今回の車輌は
直列6気筒SOHC3500ccにハネウェル社ギャレットT-25タービンを2基搭載した
ターボモデルで370馬力のBi-Turbo。
現在でも街中では圧倒的な速さを誇るスペックを持ち合わせます。
この車輌の走行距離は140,000km。オーナーは購入したばかりで足廻りが気になるとの事。
無料点検を依頼されご来店です。
そんな素晴らしいスペックをもった車輌ですが経年と走行距離でどんなフィーリングに変化しているか。
チェックの為、オーナーに助手席に座ってもらいステアリングを握り
アクセルを踏み込むと。
車体が前後左右にガクガクと暴れます。
ツインターボの加速は強烈で首が後ろに持って行かれる程。
ですが、それに比例して車体全体の振動と各部からの音は大きくなる一方。
車体の挙動が不安定な為、安心してアクセルを踏み込むことが出来ません。
オーナーからリア側面部に事故歴があるとの事を伺いリフトに乗せ各部のチェックを行いました。
エンジン、ミッション、デファレンシャルの各部よりかなりのオイル漏れが確認でき
目視のチェックだけではどこから漏れているのか全く分からない状況。。
リアの足廻りはEDC機能を持つショックが付いているのですが
オイルが噴出してしまっているような形跡があります。
パッと見た所、リアの修復歴も車体のガタツキには関係無さそうでしたので
各部の修理箇所を特定する為、入庫となりました。
まずはエンジン部から。
一見すると経年と走行距離をそこまで感じさせないエンジンルーム。
下廻りや目視だけで確認出来にくい箇所はどうでしょうか。
リフトアップするとエアコンのコンプレッサーブラケット部にはオイルの垂れ、
フロントチェーンカバーの辺りからもオイルが滲んでいるのが見て分かります。
とにかくオイル漏れ箇所なのか漏れたオイルが回ってしまい汚れてしまっているのか判別の付きにくい箇所が多く
メンテナンスメニューの作成にも時間がかかりました。
また、あまりにも漏れるオイル量が多い為か、長年この状態で放置してしまった為か分かりませんが
オイル漏れとは関係無い箇所にまで悪影響が出ているようです。
ピストンの圧縮漏れも無く腰下までのオーバーホール作業の必要は無かったのですがあまりにも
あちこちからオイル漏れがあった為、各部のオイル漏れの修理と併せてヘッドオーバーホール作業を実施。
上の写真は外したフロントカバー。漏れの確認が出来るほぼ全てのパーツがこのような状態。
エンジンオイルの管理もあまり良くなかった模様でした。
ヘッド取り外し後のピストンヘッドの状態。カーボンスラッジの堆積が見られます。
これは後ほど全て研磨し取り除きます。
エンジンマウント部にもオイル漏れ跡が見られます。オイルはゴムを侵しますので
放置する事により下の写真のようになります。
2つに割れたエンジンマウントを見るのは私自身も初めて。
車体の振動が大きいなぁと思っていた原因の一つはコレだったようです。
消耗を通り越した状態です。。。
経年と距離によりヘッド内部はカーボンスラッジだらけ。
組み込まれた各パーツを外し、各部の洗浄と交換すべきパーツは交換して行きます。
カムシャフト、バルブ、ロッカーアーム等を外し、ヘッドブロック本体の洗浄をします。
ポート内はやはり非常に汚れが目立つ状態でした。
カーボン付着によるスラッジ汚れは軽くこすったくらいでは落ちない汚れですから、時間をかけ洗浄をしていきます。
ステムシールは交換。この部分にバルブが収まります。
このシールの役割は燃焼室にオイルが入り込まないようにするもの。
ステムシールが駄目になってしまうとオイルも一緒に燃えてしまうオイル下がりの不具合が起きます。
バルブ自体は良好な状態。
バルブにもカーボンスラッジの堆積がありますから1本1本研磨していきます。
IN側とEX側合計12本。磨き上げてピカピカにしてあげます。ノッキングの原因になりそうな箇所は徹底的に取り除きます。
地味で時間もかかる作業ですが非常に大切な作業なのです。
バルブラッパー(タコ棒のエアツール版)を使用しバルブの摺り合わせをし、組み付けに入ります。
エンジンのアタリが良いとか悪いなんて言葉を耳にすることがあると思いますが
このバルブの摺り合わせがばっちり決まっているとアクセルのツキが良くレスポンスの良いエンジンになり
摺り合わせがしっかりできていないとアイドリングのバラつき等の不具合が出がちでレスポンスの悪いエンジンになります。
すり合わせ完了後、バルブスプリングコンプレッサーを使い組み上げていきます。
もちろんレスポンスの良さはこの部分だけ良ければ良いというわけではないのですが
これらの作業一つ一つ全てが重要で、エンジンレスポンスが良くなるか悪くなるか、腕の見せ所です。
ピストンヘッドにびっしりと付着したカーボンも研磨し新しいヘッドガスケットに交換。
ヘッドガスケットの材質もメタルに変更されていました。
ヘッドをのせ、ヘッドボルトも新品を用意し規定値で締めていきます。
ここが完了すれば完成まで目前です。
タービンは綺麗な状態でした。もしかしたら一度くらい交換されているのかも知れません。
インテークを取り付けし、タービン取付へ。
このタービン取り付けがエキマニとマフラーの微妙な隙間に付いておりちょっと取り付けづらそうです。
オイルフィルターブロックのオイル漏れも直して、エンジンオイル、冷却水、その他
エンジンをかける為のオイル類を注入し、エンジンスタート。
かかると分かっていても、毎回私達もドキドキしてしまう瞬間だったりします。
タペットの調整等の細かなエンジン調整を実施し、エンジン部は終了。
次はミッション。上の写真の通り、漏れたオイルがエンジンと同様に
ミッションマウントに垂れ異常な変形をしているのが分かります。
ミッションシャフトシールの消耗によるオイル漏れ。元々付いていたミッションマウントは
経年と漏れたオイルに侵されボロボロな状態。
こんな状態でもエンジンがかかりなんとなく走れてしまうのは元々良く出来た車だから。
その安心感に胡坐をかいてしまうと手痛いしっぺ返しをくらいます。
プロペラシャフトベアリングが切れていたのでこちらもついでに交換。
プロペラシャフト本体の金額は20万円強
本体が駄目になる前に交換。
デファレンシャル部はフロントシールとサイドシールからのオイル漏れ。
各シールの交換とオイルも同時に交換致しました。
最後は足廻りの見直し。
リアにはレベライザーが付いていますがこちらもオイル漏れが酷くショック自体の性能は期待できそうにありません。
インナーフェンダーのシミがオイル漏れの多さを感じさせます。
リアスウィングサポートもご覧の通りの状態。
300馬力以上のパワーを受け止める足廻りとしてはなんとも不安な状態ですね。
リアショックのレベライザーホースからもオイル漏れ。
パワステオイルを共用しているので、漏れた状態ではパワステの不具合にもつながる箇所です。
もちろん新品に交換。
オーナーと相談した所、やはり足廻りはALPINA純正が良いとの事。
新品のシャーシキットを用意しました。
古いショックのオイル漏れが良く分かりますね。
ショックだけではなくアッパーマウントやバンプラバ等も交換。
セミトレのアームブッシュも交換こちらはM5用を使用。
フロントリアのスウィングサポート。
もちろん交換。ヒビもすごいし、ボールジョイントの機能も全く果たしていない状態でした。
フロントリアのスタビブッシュも交換。
古いブッシュの変形も確認できますね。
こうなってしまってはただ付いているだけで正常な機能を期待する方が間違っているでしょう。
リアステアリングコントロールアームブッシュも交換。ブッシュが切れているのが分かります。
フロントショック、アッパーマウントも交換。全てのパーツの汚れは装着前に洗浄し落とします。
次に何かあった場合、故障箇所の判定がしやすい為でもあります。
フロントロアアームも交換。リア足廻りを脱着する為には内装の脱着も必要。
何度見てもこの時代の車輌は手間暇掛けて作られているなぁと感じます。
ステアリングガイドアーム、センターロッド、タイロッドの交換。
全てボールジョイントが消耗しきっており交換。
定期交換部品でしょう。
最後に4輪アライメント測定と調整をし、作業は終了。
今回は車輌の機関、ほぼ全てに手を入れたので1ヶ月程オーナーに乗っていただき
各部の調整の為、再度ご来店いただく予定です。
今回交換したパーツ類。小さいものから大きいものまで様々でした。
もちろん納車前にはテストラン。アクセルを踏み込むとステアリングが暴れる事無く
しっかりと後輪にトラクションがかかり、路面をトレースしていくようになりました。エンジンの吹け上がりも言うこと無し。
まだまだ現役で通用するスペックを持ち合わせながらも実際は10年以上も昔に生産された車です。
強烈な加速の中にもアルピナらしいしなやかさを感じられるモデル。
剛と柔がバランス良く調和された素晴らしい車輌だと思います。
2007年08月21日