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MAINTENANCE REPORT

【E30 320i M-Tech】エンジン・トランスミッションオーバーホール【150,000Km】

今回のメンテナンスレポートはE30 320i M-Techのエンジン・トランスミッションオーバーホールです。
走行距離は150,000Km。
オーナーによるとアクセルを踏み込んでいった際に異音の発生と同時にエンジンストールを起こし
再始動が出来なくなってしまったという事で、エンジンが全く掛からない状態での入庫になります。
突然エンジンが停止してしまう原因は燃料系の不具合や電気系の不具合、エンジン内部でのトラブル等
様々で、エンジンがかかる条件をひとつひとつ確認しながら原因を探っていく事が大切ですね。
症状により簡単に原因を特定出来る事もあるのですが、
逆にエンジンを降ろす等の大掛かりな作業になってしまう事もある為、
安易な判断はせずに様々なケースも想定しながら作業を進めましょう。
先ずは比較的多い燃料系のトラブルを確認する為、燃圧を測定。
しっかりと数値が出ておりフューエルポンプの故障やホースの劣化による
燃料漏れ等の燃料系のトラブルではなさそうです。次にカムカバーを取り外してシリンダーヘッド内を確認したのですが特に異常という程の状態の変化はみられません。
タイミングベルト断裂も無し。
スパークプラグを取り外して確認。
すると…原因と思われる症状を発見。6番シリンダーのスパークプラグに異常な量の金属片が付着しており、
シリンダー内部で何らしかのトラブルが発生していると思われ…かなり深刻な状態が考えられます。
次に圧縮圧力に問題が無いか全てのシリンダーを測定した所、やはり6番のシリンダーに異常が見られたので、
オーナーと打ち合わせし、エンジンを降ろしていく事に・・・
ATFやエンジンオイルを排出。今回はATも一緒に降ろしていきます。
フレーム等に接触しない様に慎重にエンジンとATをボディから切り離していきます。
ワイヤーハーネスや各ホース類の外し忘れ、周辺のパーツを傷付けない様に注意しながら少しずつ作業を進めます。リフトを下げた状態からボディを徐々に上げてエンジンと車体を分離させます。エンジンで見えなかった箇所などのチェックはのちほど・・・手慣れたものです。
エンジンをクレーンで吊り上げて広いスペースへ移動させます。エンジンとミッション部を分離。エンジンスタンドへ固定し、各パーツを取り外していきます。状態の変化具合を確認したりスムーズに組み立てたりする為にも、
分解する前に気になる箇所は作業前の状態の写真を撮って保存しておきます。
これはどんなに慣れていても必ずするようにしています。
クラシックモデルの場合、どこで・どのようなメンテナンスをされてきたか、など不明な事も多く
良い悪い関わらずオリジナルではない改変が行われている事があり、
その改変を生かすかどうかは、その時に考えますが、
このように写真に残しておけば間違いは起こりませんし、
慣れているという事は何台も見ているという事で、他車輛との勘違いなどを起こさないようにする為でもあります。
補機類等、各パーツの取り外しが完了。経年車のインジェクターノズルには経年による多くのカーボンが付着している事が多く、
適正量の燃料が噴霧されないと出力や燃費の低下に繋がってしまう為、定期的に洗浄を行う事が大切なのですが、
経年が進行したインジェクターではカーボンの詰まり以外にも故障等のリスクが高くなる為、
掛かりつけの主治医と相談し、経年や状態を考慮して交換しておくと良いでしょう。
今回は・・・交換ですね。
シリンダーブロックからシンダーヘッドを取り外します。シンダーヘッドを取り外し、各部確認していきましょう。シリンダーブロックを確認すると…6番のピストン上部にバルブが刺さってますね。
ここ近年、色々とエンジン分解してきましたが、久々のブローです。どうしてこうなってしまったのか…?
その他のパーツの影響も考慮しながらトラブルに至った状況を想定していきます。燃焼室側のシリンダーヘッド。
明らかに6番シリンダー部に異常が見られます。シリンダーヘッドは修復が難しそうです。どこまでを再使用可能と判断するのか
なかなか難しいですね。
取り外したシリンダーブロックのガスケット。
亀裂や破損等は無く問題無く使用されていた様です。取り外したオイルパン。オイルパンの内部を確認すると破損の際に発生したと思われる金属片が多く溜まっていました。各ピストンを外して状態を確認していきます。取り外したピストンは経年によるスラッジやカーボンの汚れが多く固着している状態。完全にスラッジが固着しており、オイルによる潤滑がうまく行われている気配がありません。
ダイヤルゲージを使用してクランクシャフトの曲がりや振れを計測。シリンダーヘッドのカムシャフト状態を確認。カムシャフトとロッカーアームの当たり面が摩耗して段差が出来てしまっています。
カム山が摩耗してしまうとバルブクリアランスが大きくなって異音を発生させ、更に状態を悪化させる為、
摩耗してしまっているカムシャフトは交換が必要です。6番シリンダーのインテークバルブ、折れてしまったエキゾーストバルブ、ロッカーアーム、バルブスプリング。
各部の状態から見ても再使用はリスクが高く、現状で異常が無かった箇所が、
今後も全く問題無いとは言い切れない事もある為、今回は搭載されていたエンジンの修理は行わず、
丁度当社のストックに同じ型式のエンジンが有ったので、そちらを使用してオーバーホールしていきましょう。
あわせて滑りの出ていたATのオーバーホールも同時に行っていきます。
ストックエンジンから取り外したシリンダーヘッド。
そのままでは使用せず、ステムシールやバルブ廻りなどすべて手を入れていきます。

ステムシール等の消耗品は全て新品へ交換。バルブスプリングやバルブコッター等の状態を確認し、経年が気になるパーツは全て新品へ交換。ストックエンジンのカムシャフト。
使用するにあたり問題は無いか各部のチェックを行います。ロッカーアームとの接触面は段付き摩耗も無くフラットな状態。
(先程の摩耗していたカムシャフトと見比べると摩耗具合が判ると思います)シリンダーヘッドにカムシャフト、インテーク・エキゾーストの各バルブを装着。
腰上はこれでほぼ完了でしょうか。
シリンダーブロック部はピストン・メタル・オイルポンプ交換などを考えていましたが
ここで問題発生で、M20B20用のオーバーサイズピストンは全て廃番・・・
走られていたストックエンジンといってもシリンダー内に若干の気になる傷もあり、
ピストンリングだけを変えてオリジナルのピストンを使用するのも最終手段として考えなくてはいけませんでしたが
80.480mmの+0.5のピストンが運良く見つかり一安心しました。
これでシリンダーボーリングしエンジンを組み上げていきましょう。
コンロッドのスモールエンドにプレス機で新しいコンロッドブッシュを圧入。ボーリングが終わったシリンダーブロック。
防錆処理後に耐熱塗装を行っておきました。クランクのジャーナル部の脱脂を行った後にベアリングメタルを取り付け。クランクシャフト。
若干曲がりがあったので曲がり調整済み。ベアリングメタル(アッパー・ロア)はもちろん新品を使用。ベアリングキャップへ新しいベアリングメタルを装着し、クランクシャフトを組んでいきます。クランクシャフトを装着し、ボルトはトルクレンチを用いて中心部から既定のトルクで締め付けていきます。プラスチゲージでクランクシャフトのメタルクリアランスを測定。ニューピストン。コンロッド、コンロッドメタル。
コンロッドメタルも当然全て新品を使用。ヘッドボルトのネジ山はタップで整えておきます。ピストンを装着する際はピストンリングの合い口を考えてピストンを挿入する事が大切で、
ピストンにアッセンブリーペーストを塗っておき、
ピストンリングコンプレッサーでピストンリングを締め込んでから、慎重にシリンダーブロックへ装着します。全てのピストンの装着が完了。コンロッドボルトは塑性域締めを行い、
規定値で装着されているかアングルトルクゲージでコンロッドボルトの伸び量を測定。新旧のオイルポンプ。
新しいオイルポンプを装着。シリンダーブロック上面を脱脂し、新しいヘッドガスケットを使用してシリンダーヘッドを装着します。
新品のシリンダーヘッドボルト。シリンダーブロックへ装着する前にシリンダーヘッドの装着面を綺麗に整えておきます。シリンダーヘッドボルトは締め付ける順番が決まっており、アングルトルクゲージを用いて、
規定通りの順番で塑性域締めを行います。最後に角度締めを行ってシリンダーヘッドの装着が完了。消耗品のカムシャフトシールは新品へ交換。ウォーターポンプやテンショナー、タイミングベルト等を装着していきます。ウォーターポンプ、テンショナー、タイミングベルトの装着が完了。
ベルト類は新品へ交換済。ウォーターポンプは交換したばかりなので再使用しました。
遮熱板と一体式の新品のガスケットを使用して既存のエキゾーストマニホールドを装着。新旧のフライホイールボルト。
ボルトには緩み止めのロックタイトを塗布。新しいフライホイールボルトを装着し、エンジンへミッションを組込みます。
ATはオーバーホール済み。ATは当社ではベンチテストが出来ないので、専門の業者さんへリビルト依頼しております。
所定の位置まで移動させ、アクスルキャリアを装着し、
その他の補機パーツも装着していきます。エンジンの装着は降ろした時と逆の手順で、
しっかりと位置合わせをした後に車体が乗っているリフトを徐々に下げて、
微調整を行いながら慎重に。エンジンルーム内のゴムホース類は新品に交換。新旧のインジェクター。
適量のATFを注入。
テストランを行って油温に注意しながら油面調整を行います。
ATFはテストランをした後に調整を行わないと正確な油量にならないのですが、
油温が一定以上に高くなってしまうと膨張して正確な油量の計測が出来なくなってしまう為、
油温を計測しながら適切に素早い作業が必要です。
適量のエンジンオイルを注入。新旧のスパークプラグ。
全て新品へ交換。新旧のダストカバー。
エアフロメーターとインマニを繋いでるパーツなのですが、ゴム製の為経年劣化していくと、
クラックが入る等で2次エア吸いを発生させ、
アイドリングが不安定になる事でスムーズな走行が出来なくなってしまいます
特に接続部と蛇腹の部分はクラックに気付き難い箇所なので、定期的に状態を確認しておくと良いでしょう。
そしてエンジン始動。油圧を上げ、プラグコードをつなげて点火。
この瞬間は何台エンジンを組み上げてきても緊張するものです。
軽やかにエンジン始動し、あとは細かい箇所を仕上げて今回のミッションは完了です。
オーナーへ分解整備記録簿をお渡しし、整備内容や今後のメンテナンス等をお話して納車となりました。

2020年07月18日