【E36 M3B】アイドリング不調修理etc,,,【170,000Km】
当社でレストアした1987y M3。
先日フロントリアのウィンドウを新品に交換し、納車半年点検整備を終えてオーナーの元へ帰還しました。
エンジンの吹け上がりも気持ち良く、良い車に仕上がってくれました。
本日はデスクワークを進めていきますよ~。二本目です!
今回はE36 M3Bのアイドリング不調修理です。走行距離は170,000Km。
北海道からのご入庫。塗装もしっかりしており大事にされているのが良く分かる車輛でした。
E36系のアイドリング不調は比較的多い症状で原因も様々あるのですが、
不具合が複合的に発生しているケースもあるので
一箇所を直しても症状が改善しない事も多く原因を特定する事が非常に困難になる為、
原因が特定出来ずに修理を諦めたり、不安を抱えながら走行しているオーナーもいらっしゃるのではないでしょうか?
今回のオーナーは初めてのご入庫で地元、北海道でも整備修理を行っているのですが症状が改善しなかった為、
はるばる北海道から…修理の連絡を頂いたのでBMW専門店として原因不明のまま帰宅させる訳にはいきません。
原因と思われる箇所を一つ一つ入念にチェックしながら慎重に作業を進めていきましょう。
エンジンをかけると冷間時は少々ラフですが気にならない程度のアイドリング状態です。
水温が上がるにつれてかなりラフなアイドリングに変化し、タコメーターの針も踊り
明らかに不調と感じる症状に変化していきます。
北海道でも検査したようですが、まずは基本的な点火・燃料系統から調べていきましょう。
スパークプラグとイグニッションコイルの単体検査。
燃圧検査。
6気筒それぞれのピストンコンプレッションを検査。
基本的な検査を進めて行きましたが、コレ!という原因も見当たらず。
VANOSの数値がテスター上でもイマイチ納得のいかない数値なので、VANOSを外して見ていきましょう。
VANOSの動きを制御するソレノイドバルブを取り外して動作確認を行っていきます。
制御機能は問題無さそうです。
SSTを使用してVANOSを取り外し状態を確認。
VANOSだけでなくスプロケット周辺のギアやタイミングチェーン、
インプットシャフトの状態なども確認していきます。
取り外したVANOS本体。分解していきましょう。
分解しながら一点一点確認していくとスラッジ溜まりがそれなりにありますが、
アイドリング不調につながるほどの量ではなさそうです全て分解し、洗浄し各Oリングやガスケットなどを交換しながら作業を進め組み付けをしていきます。
カムカバーボルトのラバーシールを交換。新旧のプラグホールガスケット。新旧のカムカバーガスケット。
カムカバーからのエンジンオイル漏れは主にガスケットの経年劣化によるものなのですが、
交換は必ず3点セット(カムカバーガスケット・プラグホールガスケット・ラバーシール)で行う事が大切です。
BILSTEIN社のR2000を施工してエンジンの隅々までフラッシングを行います。
R2000はオイルフィルター部から42℃に設定した洗浄剤を圧送させ
内部のスラッジやカーボン等の汚れを分解・除去をした後にR2000のフィルターで濾過を行いながら
再び循環させて徹底的に汚れを除去する為、エンジン内部のスラッジ除去には効果があります。
ただし、サラッとしたスラッジの除去には効果はありますが、
固着したスラッジなどには効果は薄いので、エンジン内部の様子を確認し使用するのがベストですね。
R2000の施工を終えたら新品のオイルエレメントを装着し、
規定量のエンジンオイルを注入してエンジンオイル交換が完了。
エンジンを始動し、アイドリングの調子を見ていきます。
入庫時よりハンチングが少なくなってはいますが、工場長は納得のいかない様子。
もう一度、基本的な部分からチェックを進めて行きます。
2次エアの吸い込みをチェック。インマニを取り外して各ホースの状態を確認。インマニを取り外してみると…アイドルバルブホースに補修された箇所を発見。拡大して見ると御覧の通りホースに亀裂が入ってしまったのかシール材で施工されていました。
工場により考え方は様々で亀裂が小さかったりすると、この状態なら交換しなくても大丈夫、
まだ耐久性は問題無い等の判断で応急処置として施工するケースもある様なのですが、
目先だけの施工では根本的な問題の解決にはならず、再び不具合が発生するか
2次被害へ拡大してしまう可能性も考えられるのでおすすめは出来ません。
故障の度に部品を外す工賃や修理の時間等のメンテナンスコストも余計に掛かってしまうので
一時しのぎの施工や部品の延命ではなく、一度の修理である程度完全に直してしまう事が重要です。取り外したアイドルバルブ、アイドルバルブホース。
アイドルバルブホースは経年劣化により弾力性が無くなっている為、
ホースバンドで締め付けていた箇所が痩せてしまっています。新旧のアイドルバルブ。
新旧のアイドルバルブホース。
劣化が進行している為、上下セットで交換。手前に折れているので、取り外さないと分かりづらいかも知れませんね。
新品のアイドルバルブ、アイドルバルブホースを装着。
ホースバンドも経年劣化で締付けが弱くなったり破損してしまう事があるので新品へ交換。
アイドリングも良い方向へ変化してきていますが、まだ本調子ではなく・・・
次は制御系統を確認。VANOSコントロールユニットをチェックしていきます。
正常にアイドリングする時もあれば、ハンチングが止まらない事も多かったので
ハードではなくソフトを疑いました。
取り外したコントロールユニットの内部の状態を確認。基盤の一部にショートした跡を発見。
今回の不具合の原因の一つになっていた事が考えられます。
一部のショートなのですが、異常電流が流れてしまった事で他のパーツへの影響も考えられる為、
一部を直して使用するよりも経年等を考慮して交換してしまった方が良いでしょう。
新品と交換し、アイドリングは改善。M3Bらしさを感じさせる走りを取り戻せました。
他にも色々と細かい作業は発生しましたが、割愛します。
ここまで約半年。お時間かかってしまいましたが完全にお直し出来て良かったです。
お預かりしている最中に車検が切れてしまったので、その他整備と車検を取得していきます。
デフオイル交換。
デファレンシャルギアのオイルを交換するのですが、交換の前にフラッシング剤を注入して
内部で発生したスラッジを排出しやすくします。デフオイルの排出は必ず温めた状態で行わないと排出に時間が掛かるだけでなく、
上手くスラッジを排出する事が出来なくなってしまうので注意が必要で、
排出には時間を掛けてしずくが垂れなくなるまで行います。
デフサイドシールからのオイル漏れを確認。
汚れ方を見ると以前から漏れていた様です。
オイルシール、アウトプットドライブフランジのOリングを交換。
オイルシールは環状バネが組み込まれ、バネの反発力でシールの密着度を高めてオイル漏れを防いでいるのですが、
オイル管理が不十分だったり、経年劣化する事でオイル漏れを発生させる為、定期的な点検とオイル交換が必要です。汚れが付着したり斜めに圧入してしまうとオイル漏れを発生させる為、古いオイルシールを外した後は洗浄を行い
装着時は斜めに入らない様に慎重に圧入する事が大切です。インナーシャフトのベアリング部は油膜切れにより焼き付きが発生していました。
更に症状が酷くなると交換が必要になるので注意が必要です。ドライブシャフトを装着し、規定量の新しいデフオイルを注入してデフオイル交換が完了。タイロッド、タイロッドエンド、ステアリングラックブーツ等を交換。左右共に交換するのですが、融雪剤等の影響で
タイロッドエンドのロックナット部分が錆で固着してしまう事が多く
タイロッドの調整が出来なくなる事もありますので雪の多い地域は下廻りの錆の発生に注意して下さい。ステアリングラックブーツを外しタイロッド、タイロッドエンドを交換。新旧のタイロッド、タイロッドエンド、ステアリングラックブーツ、ブーツバンド、ステアリングロックプレート。
一式をセットで交換。
ブーツバンドやステアリングロックプレートは再使用せずに必ず新品へ交換して下さい。
ガタが出ていたりタイロッドエンドブーツやステアリングアックブーツに損傷があれば早急に交換が必要です。左右のタイロッド一式、最後にステアリングラックブーツを装着して交換が完了。パワステオイルの交換。
専用の機械を使用してパワステライン内のフラッシングを行い、ギアボックスで発生したスラッジ等を
古いパワステオイルと共に車外へ圧送させます。
E36はウィークポイントとしてパワステ経路のオイル漏れが多く、
オイル漏れを防ぐ為にもオイルの管理が非常に重要で、日頃からリザーブタンク内のオイルの状態を確認し、
汚れていれば早目の交換、もしくは二年毎(車検時)に交換をおすすめしています。
パワステオイルの交換が完了。
画像の様に新油は透明の赤色なのですが、劣化するとスラッジを含む事で徐々に透明度は薄れて黒味を帯びてきます。
パワステ経路内にスラッジが残ってしまうと交換しても透明度が低く交換直後に濁ってしまう事がある為、
交換方法にも注意が必要です。
ギュルギュルと始動時に異音がしていたので
ベルト類、ベルトテンショナー、テンションローラー、プーリー等を交換。
これらは消耗パーツなので定期的に確認を行って状態を把握しておく事が大切です。新旧のエアコンベルト、テンショナープーリー、保護キャップ。
経年を考慮して全て新品へ交換。新旧のファンベルト、ベルトテンショナー、テンションローラー、テンショナープーリー、保護キャップ。
装着に使用するボルトも全て新品へ交換。室内に冷却水独特の甘い匂いが漂っていた為、どこからか冷却水が漏れているとの事で検査。
ヒーターコアはセンターコンソール奥のハウジングケース内に設置されている為、各部品を外してアクセスします。カーステレオや操作パネル等を外していきます。ハウジングケースのカバーを外しヒーターコアを取り外します。新旧のヒーターコア。
アルミコア部にも多少のダメージは出ているのですが、上部のプラスチックの部分とアルミコアの結合部から
冷却水漏れを起こす事が多いですね。
同時にパイプとの接続に使用するOリングを交換。 新品のヒーターコアを装着。新旧のブリーザーパイプ。
経年劣化してしまうと、ちょっとした衝撃や振動で割れてしまう事が多く注意が必要です。接続部のホースやホースバンドも新品へ交換。リザーブタンク側の接続部も同様に新品へ交換。冷却水の交換。
専用の機械を使用してフラッシング剤を注入し内部で発生した錆や水垢を浮かせて古い冷却水と共に車外へ圧送。
車検に備えてスチーム洗浄を行ってエンジンルームや下廻りの汚れを綺麗に落としておきます。インスペクションのリセットを行います。リセット完了。
全ての作業を終えたら最終のテストランを行って問題が無ければ
最寄りの陸運支局へ車輌を持ち込んで車検を取得します。今回はオーナーとの打ち合わせはお電話のみで行わせていただきました。
長いお預かりになってしまいご迷惑をお掛け致しましたが、
完治してくれてこちらもホッと一息。またお困りのことがあればいつでもご連絡下さい。
アイドリング不調修理をメインに油脂の交換やヒーターコアの作業行いました。
クラシックモデルになればなるほど様々な要因・原因でトラブルが発生する事も多く、
今回のように一つ一つ問題点をクリアしていかなければならない事も多くあります。
もどかしく感じさせてしまう事も多いかとは思いますが、
人が造ったものであれば絶対に直せないものは無いという信念を持ちながら我々も車と向き合っていますので
いつもお付き合いいただいているお客様には感謝です。
2019年09月07日