第63回 E39 525i
今回のメンテナンスレポートの主役はE39 525iになります。
納車されたのは昨年の年末。他店で購入されたお客様です。
『車庫入れでバックの最中、左タイヤをぶつけてしまい見てもらいたい。』
との事。
こちらも
『 見ますのでお気軽にご来店下さい~。』
と電話で答えてしまったのですが
蓋を開けてみるとこれがとても酷い状況でした。
幸い、お近くに住むオーナーでしたから移動距離も少なく、問題はありませんでしたが
やはり状況が不明で、オーナー自身がそこまで車に詳しくない場合は
しっかりと引き取りにお伺いするべきだと私自身猛反省。。。
上の写真でもタイヤの曲がり具合が分かると思います。
それではどんな形で不具合が出ているか見ていきましょう
ジャッキアップし、タイヤを外すとブレーキローターがものすごいハの字を切っているのが分かります。
一目で赤丸印の箇所のアーム部分に異常があるのが分かります。
この写真の時点でこの異常以外で、決定的に5シリーズのオリジナルの足廻りとの違いが分かる方はスルドイかも?
左写真の左の矢印はバック時にインナーに強くぶつかったタイヤ跡。
バック衝突時の衝撃の強さがうかがえます。
右矢印、変形アーム部と、その部分のアップが右の写真。
アームの向きがおかしい事、そのアームの取付部分の変形が確認できますね。
アームが付いている箇所はリアアクスルキャリア。リアメンバーになります。
リアアクスルキャリアにダメージがありましたのでASSY交換になります。
外さなくては不具合箇所が分からないパーツが多いですから、一つ一つ確認していきます。
リアアスクスルキャリアのサスペンションリンクガイドの取付部分。
がっちり変形し、割れも確認できます。
正常なリアアクスルと比べると一目瞭然ですね。
確かに素材はアルミなのでスチールよりは強度は低いですが
ものすごい変な当たり方をしない限りはこんな酷い事にならないのですが・・・・・
私自身、同じ症状を確認したE39は二台目になるわけですが、一台目に関してはのちほど。
文頭でローター以外の決定的なオリジナル状態との違いと言ったのはコレです。
そう、色です。
下廻りを確認時まず最初に気付いたのが、並行車と見間違う程シャーシブラックが吹き付けられている事。
シャーシブラックとは簡単に言うと簡易錆び止めスプレー。
並行車等はアンダーコーティングされていない車輌が多い為、
錆び止めもしくは錆び隠しで使用されているケースが多いのです。
この車輌はもちろんれっきとした平成14年登録のディーラー車です。
またアルミパーツで構成されているセクションなのでアンダーコーティングの必要性は通常無し。
何故、この様ににシャーシブラックを吹き付ける必要があったのでしょうか?
推測の話しも交えながらの話になってしまいますが一つ一つご説明しましょう。
分解して詳しく寸法を測ったり、組み付け部分の確認をしていくとサスペンションリンクガイドの他に
左リアのロアアーム、左ウィッシュボーンにもダメージがありましたので交換します。
左の写真がロアアーム。
右が新品ですが、随分と形状が違い強化された対策品である事が分かりますね。
ロアアーム自体の不具合報告例は結構あったのかも知れませんね。
色も付いておらずアルミの地金色です。
ちなみに当社の場合、こういったパーツの中古品は、
出所が余程はっきりと分かっており、
且つ、そのパーツに何か問題があった場合しっかりと保証を約束してくれる事が無い限り
使用する事はまずありません。
中古パーツそのものを否定している訳では無いので誤解の無いよう。
中古パーツを使用して作業を済ませるセクションであるべきかどうかが問題なわけです。
話しは変わりますが右の写真の矢印部分、何の跡か分かりますか?
平たいロープの跡なんです。
そんなの関係あるの?と思っている方、大ありなんです。
まず、なんでロープ跡が付いているか?
キャリアカーに乗せた時に固定する為にロープを回しこの部分を支点にしロープを回し、車輌を固定したと推測出来ます。
この車輌の足廻りの素材は?
先にも言いましたがアルミになります。
車の構造と使用素材すら把握していない人間がキャリアカーに乗せ運んだ可能性があります。
それもシャーシブラック吹き付け後。
通常、この箇所を固定の支点に使う事はありません。
当社だけでは無く、通常の車屋さん、陸送会社さん、修理屋さん
特別な理由が無い限り所定の箇所にロープを渡しています。
街中を走っているキャリアカーを見てみると良く分かりますよ。
また、このロープ跡は他にも疑わしき部分もあるのですが、それはのちほどお話します。
こちらが新品のリアアクスルキャリア。綺麗ですね。
左側部分のアーム類、左からサスペンションリンクガイド、ロアアーム、ウィッシュボーン。
本意ではないのですが他との色のバランスが良くなるよう黒に塗装致しました。
右のウィッシュボーンのブッシュが千切れていたので
オーナーに確認していただき交換させていただきました。
新しいパーツを組み付け、他に異常がないかの最終確認も踏まえ
スチームにて洗浄。
リア廻りに関しては、当分の間、触ることがないように同時に交換出来る物は交換致しました。
リアのアッパーマウントも交換。
シャーシブラックの跡が残るリア下廻り。
作業自体は下ろした逆の手順でリアアクスルを乗せ、4輪アライメント調整後
テストランをかなり多めにさせていただき、問題が無い事を確認し納車となりました。
その他にも問題が多く見られた車輌でしたが
安全に走るようにはなりました。
と、通常であればこれで終了なのですが、この車輌に関してと、
先に述べたロアアームのロープ跡の疑わしき可能性についてお話しましょう。
オーナーが車輌をぶつけてしまった状況を目の前で確認しているわけでは無いですし、
こうなってしまう以前の状態が不明なので推測の話しになりますのでご理解の上、お読み下さい。
写真を見てお気付きの方も多いかとは思いますが、リアアクスルの変形の仕方がおかしいのです。
バック時に変形してしまっているのはインナーのタイヤ跡でも確認は取れております。
ですがバック時だけの変形であればこのような変形をせずに
もっとサスペンションリンクガイド取付部根元がフロント側に曲がっていておかしくない状態
と考えるのが普通ですね。写真ではサスペンションリンクガイド取付部根元がリア側に
折れ曲がっているのが分かります。つまり直進時とバック時の二段階に分けて折れてしまっている状態なのです。
ではどちらが一段階目なのか?
分かりますよね?
シャーシブラックを吹き付けなくてはいけなかった理由。
ロアアームに付いていたロープ跡がキャリアカー積載の為では無く、酷く乱暴な修正跡だとしたら?
もし仮に修正したつもりでこの車輌を販売しているのであればとんでもない話です。
では推測の話しはここまで。
格安を売りにしているお店。品質を売りにしているお店。
現在車輌に問題のあるにも関わらず直しもしない(納車整備料はしっかりと取っている。)
問題が起こるであろうことを予測しているにもかかわらずその対策も予備知識もお客様に与えずそのまま納車してしまうお店、
論外な話しですが、中にはその問題さえも見抜く事の出来ない車屋さんもあります。
オークションの評価点がしっかり付いているからと言って
その評価点をそのまま鵜呑みにし、車輌確認もせず無事故車として納車し
そんな車を1年間、アライメントを何度も修正させごまかし、タイヤ交換をありえない頻度でさせながら
無事故車だと言い張り乗り続けさせ、当社にちょっとおかしいから見て欲しいと言われ、見せてもらった
E39の5シリーズが今回と同じような症状の一台目のE39でした。
そのオーナーは前オーナーに連絡を取り、大事故を起こしたことによりその車を手放した事を話してもらったそうです。
脅かすわけでは無いですが、そんな車を販売している所も少なくないわけです。
ですから。
買い手のお客様。
同じグレード、同じ内容でお店によって販売価格が¥1,000,000以上違う車を
購入する場合は、もうちょっと車の内容etc….勉強してから購入すべきでは?と思います。
金額が安いから必ず不具合が出るかと言ったらそうでは無いかも知れません。
中にはトラブルも無く乗っているオーナーもいるでしょう。
ですが、私が今まで見てきたこの手の車輌でコンディションが良いと感じた車は、はっきり言って一台も有りません。
但し、安く購入したから仕方が無い。と割り切れる方は良いかも知れませんし
安く購入した分、しっかりとメンテナンスを施し、
自分の中でそのリセット作業の内容を把握し乗って行くのは悪いことでは無いと思います。
最近、当社に来店されるお客様で購入した金額の安さから心配になり、
点検でご来店されるケースが非常に多くなってきましたし、丁度良い機会でしたので今回取り上げてみました。
2007年08月20日